電波吸収体について

電波吸収体とは電波のエネルギーを熱に変換することで吸収する材料です。 電波吸収体は、大きく分けて誘電損失タイプと磁性損失タイプの2種類があります。 誘電損失タイプは、発泡ポリスチレン等の発泡性樹脂を基材として、カーボン等の導電性材料を含浸させたもので、 古くから存在するタイプの電波吸収体です。

誘電損失タイプでは大別すると、電波暗室等で使用される広帯域にわたって良好な電波吸収特性を持つピラミッド型 あるいは楔(くさび)型の立体的形状を持つ電波吸収体と、無線LANやETC、RFIDなどの特定周波数、 または比較的狭帯域に対応したシート型の電波吸収体があります。 またピラミッド型(楔型)電波吸収体には様々な山の高さがあります。 一般に厚み(山の高さ)は透磁率、誘電率、吸収させたい電波の最低周波数(波長)により決定されます。

自由空間を伝搬してきた電磁波が電波吸収体に入射する際に、吸収体表面のインピーダンスが自由空間の 特性インピーダンス(377Ω)に近い値でないと表面で反射が起こり、電波をあまり吸収することができません。 この表面インピーダンスは、透磁率、誘電率と材料の厚み、周波数の関数となっています。 誘電体の場合、透磁率(複素比透磁率)は1ですので省略できます。 この表面インピーダンスを計算すると周波数が低い程(波長が長い程)、 厚みが必要となる(ピラミッドの山が高くなる)ことがわかります。

また、ピラミッド型あるいは楔型等、電波の進行方向に対してテーパーが付いているのは次の理由によります。 広帯域にわたり良好な電波吸収特性を得ようとすると、カーボン等の含有する導電性材料の濃度が進行方向に対し次第に濃くなるよう、濃度を変えた平板型の電波吸収体を積層する必要があります。しかしながら製造するにあたっては大変な手間が掛かり、 コストアップにもなります。そこで単一濃度の電波吸収体を作り、形状をテーパー型とすることで 等価的に多層型の効果を持たせたものがピラミッド(楔)形状です。また、立体的な幾何学形状の電波吸収体では散乱効果も期待できます。

ピラミッド型(楔型)電波吸収体は、吸収させたい最低周波数に合わせた山の高さのものを選定すれば広帯域であるため、 周波数が高くなることにおいては特に制限はなく、ミリ波帯に至るまで良好な吸収性能を得ることができます。 一方単層の平板状吸収体は狭帯域の吸収特性しか示さない特徴があります。 特定の周波数でのみ良好な特性を示し、それ以外の周波数帯ではピラミッド型の吸収性能と比較するとかなり劣ることになります。 特に薄型のシート状の吸収体は共振型と呼ばれ、平板状吸収体と同様な傾向を示します。

磁性損失タイプの電波吸収体としてはフェライトタイルが挙げられます。 これは酸化鉄の粉末に亜鉛やニッケル、マンガン等を添加物として加え、タイル状に成型した後、高温で焼き固めたものです。 非常に薄型でありながら(厚さ5~6mm程度)、広帯域の電波吸収特性を持つ優れた電波吸収体です。 大きな磁性損失を持つ材料では、原理的に低周波帯でも薄型で良好な吸収特性を持つことができ、 大きな誘電損失タイプに代わる画期的な電波吸収体として登場しました。 今日ほとんどのEMC試験用電波暗室で用いられている材料であり、主に30MHz~500MHzの周波数帯をカバーします。

さらに、高周波特性に優れる誘電損失タイプと低周波特性に優れるフェライトタイルを重ね合わせて使用することで、 両タイプの特長を生かした複合型電波吸収体が実用化されています。 これには上部に重ねる誘電損失タイプの電波吸収体の誘電率(誘電損失)を下に貼り付けられているフェライトタイルと 整合(マッチング)が取れるように設計することが重要となります。 近年では30MHzから数10GHzという超広帯域にわたって良好な吸収性能を持つ電波吸収体も開発されています。

なお、電波吸収体の性能は、電波吸収体に入射した電波と反射して返ってきた電波の電力比で表わされます。 ここで入射電力をP1[dB]、反射された電力をP2[dB]とすれば反射減衰量(R.L)は次の式で定義されます。 反射減衰量の定義

広帯域特性を持つ電波吸収体の場合は、概ね-20dB以下(入射電力の90%吸収)の反射減衰量が どの程度の周波数帯域で実現されているのかを目安として考えます(それ以外では使用できないという意味ではありません)。
ちなみに反射減衰量-20dBとはVSWRに換算すると約1.22となり、その定在波の振幅は±0.9dB程度となります。

電波吸収特性の例(フェライトタイル)

電波吸収特性の例(フェライトタイル)

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